大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)171号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。

(一) 本願発明で用いられる吸着剤は、意図的に水分を含ませたものでない、加熱処理した吸着剤であつて、無水吸着剤といつても、水分零を意味するものではないが、ほぼそれに近い吸着剤であり、これに対し引用例記載の方法で用いられる吸着剤は、水分を意図的に吸着させた活性アルミナであることは、当事者間に争いがない。

原告は、引用例記載の水分を存在させた吸着剤処理に代えて無水吸着剤処理を行うことは容易になしうることではないと主張する。

しかしながら、油脂類の精製法として吸着剤処理を行うことは、本願発明の出願前広く行われていたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三から第四号証によれば、本願発明で用いられる吸着剤は、本願発明の明細書中の、「本発明で使用されるアルミナ類及びシリカ類の適当な例は、ギブサイト又はバエライト(bayerite)のようなアルミナ類、商標ソルブシル(Sorbsil)(Joseph Crosfield and Sons, Warrington, 英国)及びキーセルゲル(Kieselgel)M(Fa. Herrmann, cologne, ドイツ)で知られているシリカゲル類のようなシリカ類である。適当なアルミナ類又はシリカ類の他の例はアルミニウムオキシド(Aluminiumoxid)504C(Fluka AG, Buchs, スイス)、キーセルゲルNo.七七三四(E. Merck, Darmstadt, ドイツ)及びシリカゲルタイプ六二(Grace GmbH, Bad Hacmburg V. d. H, ドイツ)がある。」(第八頁第二行ないし第一五行)との記載から明らかなように、その出願前一般に使用されている慣用の吸着剤であることが認められる。

そして、成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例には、油脂類精製工程のいずれかにおいて油脂類を五%ないし二〇%の水分を吸着せしめた活性アルミナで処理することを特徴とする油脂類の戻色防止方法が記載され、その一例として、実施例4に、ベンヂンを用いて圧扁した大豆から溶出せしめた油(ミセラ)を水分一五%前後に調節した活性アルミナの充填塔に送入してアルミナと接触させ、常法に従つてベンヂン蒸留工程及び脱ガム工程を経て大豆粗油を得た後、苛性ソーダで脱酸し、活性白土を用いて脱色し、蒸気吹込脱臭を施して製品とすること(第二頁右欄第二七行ないし第三頁左欄第二行)が記載されていることが認められ、この引用例記載の方法と当事者間に争いのない本願発明の要旨とを対比すると、両者は、その対象とする原料油、精製方法に用いられる非極性溶剤並びに吸着剤処理、溶剤の除去及び活性白土処理などの処理順序がすべて同一であり、吸着剤に意図的に水分を含有させた吸着剤を用いるか否かの点において相違するにすぎず、当業者であれば、引用例記載の吸着剤に代えて本願発明で用いられるその出願前慣用の実質的に無水の吸着剤を用いることを想到することに格別の困難は認められない。

もつとも、前掲甲第五号証によれば、引用例には、「この場合、活性アルミナをあらかじめ適当な水分まで吸湿せしむることは絶対に必要で、もし通常の用法の如く無水又はそれに近い状態で使用する時は、脱臭直後の製品は淡色となるが、油脂が活性アルミナの強力な接触作用を受けて変化するために貯蔵中あるいは加熱によりアルミナ無処理の製品よりもかえつて濃色となる。」(第一頁右欄第一三行ないし第一八行)と記載され、かつ、実施例1に、活性アルミナの水分量を変化させた場合における色戻りのデータが示され、活性アルミナの水分量が〇%の場合よりも四・二五%、一〇・〇一%、一六・二八%の場合の方が色の戻りが小さいこと(第一頁右欄第三一行ないし第二頁第一二行及び同頁左欄第一三行、第一四行)が記載されている。

原告は、この記載は、油脂の色戻りを防止するには本願発明で使用されるような無水吸着剤は絶対使用すべきでないことを意味すると主張する。

しかしながら、前掲甲第五号証によれば、引用例の実施例1に記載のものは、脱酸した大豆粗油を活性白土処理した後に活性アルミナ処理を行つた方法のものであつて、本願発明や引用例に実施例4として記載された方法のように活性アルミナによる処理をした後に活性白土処理を行つた方法のものではない。そして、油脂類を活性アルミナで処理した後更に活性白土処理を行う方法においては、引用例の実施例1に記載の如き活性白土処理後にアルミナ処理を行つた場合と異なり、アルミナ処理によつて生じた不純物をその後の活性白土処理によつて除去するという効果が生ずる可能性があるから、引用例に右のような記載があつても、この記載は、引用例の実施例4の方法、すなわち、大豆粗油を含水量一五%前後の活性アルミナを用いて処理した後、更に活性白土処理する方法を採用するに際し、そこに使用されている活性アルミナに代えて一般に使用されている慣用の実質的無水のアルミナ吸着剤を使用してみようと考えることの妨げとはならない。

しかも、本願発明が引用例の実施例4に記載の方法に比して原告主張のような格別顕著な作用効果を奏することについては、後述のとおり、何らの立証もなく、これを認めることはできないから、その作用効果が引用例記載の右の方法に実質的無水の吸着剤を使用することにより通常予測できる範囲をこえるものということはできない。

なお、審決が吸着剤の置換容易性について、「引用例の発明では、該吸着剤処理の際水分を存在させることにより一種の分配クロマトグラフイーの現象が起り、移動相でありかつ色素性物質の溶媒である油脂と固定相である水との間に分配係数の差に基く色素の溶出が行われるものである点を考慮すると、……当業者が容易に類推しうるところと認められる」としていることについては、水分を存在させた吸着剤の吸着機構を示すだけであれば置換容易性に結びつかないことは原告主張のとおりであるが、審決は、この点も含めて、審決の理由の要旨記載のとおり、本願発明が引用例記載の方法に基き容易に発明できたものと判断しているのであつて、その結論に誤りのないことは、前述したところから明らかである。

(二) 原告は、審決が吸着剤に水分を存在させるか否かにより生ずる効果に格別の差異はないとしたのは誤りであり、本願発明の貯蔵安定性改善効果(異臭防止効果)と引用例における色戻り防止効果とは全く異質の効果であるから、本願発明の奏する効果は、引用例記載の方法から全く予期できなかつたものであると主張する。

しかしながら、前掲甲第二号証の一ないし三から第四号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明及び図面には、本願発明の奏する効果の一つである貯蔵安定性改善効果について、本願発明の方法によつて精製処理した油と常法によつて精製処理した油、吸着剤処理後漂白処理していない油などをそれぞれ一四週間貯蔵した場合の優劣を試験した結果が記載されているが、これらの試験結果はいずれも吸着剤としてシリカゲルを用いた方法のものであつて吸着剤として活性アルミナを用いた方法のものではなく、後者については右明細書には何らの記載もなく、ほかに本願発明に含まれる吸着剤として活性アルミナを用いる場合について、引用例に記載された実施例4の方法による場合と比較して顕著な作用効果を奏することを認めるに足りる何らの証拠も存しない。本願発明は、アルミナ処理後活性白土処理をする点では引用例に記載された実施例4の方法と何ら異なるものではないから、右の点について何らの立証も存しない以上、本願発明の奏する効果が引用例記載の方法に比して格別顕著であると認定することはできない。

(三) 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例記載の方法に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当であり、審決には原告の主張するような違法はない。

3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

食用グリセリド油の非極性溶剤溶液を、金属酸化物又はメタロイド酸化物吸着剤含有塔の中で該吸着剤と接触させ、次いで油から溶剤を除去後、油を漂白土で処理することを特徴とする食用グリセリド油の色及び貯蔵安定性を改善する食用グリセリド油の処理方法。

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